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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1761号 判決

被告人

鈴木初男

外一名

主文

本件控訴は何れも之を棄却する。

当審に於ける訴訟費用(国選弁護人支給分)は被告人鈴木初男の負担とする。

理由

被告人両名の弁護人大池龍夫提出の控訴趣意書の要旨は

原審に於て検察官は其冒頭陳述を「本件に於て証明すべき事実として第一に公訴事実之は右一覽表中(一)乃至(二十七)及(三十四)乃至(四十一)各掲記の書類、並に証拠物(中略)の各存在に依り立証し、二は情状に関する事実之は前記一覽表中(四十三)乃至(五十)の各掲記書類に依りて立証する(以下省略)と述べた」と記載されてあるが検察官の冒頭陳述即ち証拠に依り証明すべき事実とは犯罪を構成する個々の事実及其存在を推知せしめる間接事実を謂うのであつて各事実を具体的に陳述し以て被告人に対する防禦の方法を得せしめるにあるのであるから単に公訴事実を立証すると謂う陳述は結局冒頭陳述が無かつたことに帰着する。即ち原審の訴訟手続は此点に於て明に判決に影響すべき法令の違反があると謂うにあり。

依つて記録に基き審按するに原審第一囘公判調書の記載に依れば原審検察官の冒頭陳述は弁護人所論の通りであつて右は明に刑事訴訟法第二百九十六条の趣旨に反し結局に於て冒頭陳述が無かつたことに帰着するものであるが翻つて考察するに刑事訴訟法第三百九条に依ると「検察官、被告人又は弁護人は証拠調べに関し異議を申立てることができる」と規定し、また刑事訴訟規則第二百六条に依ると「証拠調に関する異議の申立は、個々の行為ごとに、遅くとも其行為が終つた後直ちに之をしなければならない」と規定してあるから証拠調に関して不服ある場合は須く右の方法に拠るべきであつて此手続を怠り、または異議が無かつたに不拘、控訴審に於て更めて其不服を主張することは之を許されないものと解しなければならない。而して冒頭陳述は証拠調自体では無いが尠くとも証拠調に関するものであることは其性質上明であるから原審検察官が冒頭陳述を為さず、または不完全な冒頭陳述を為した場合に於て被告人又は弁護人に不服あらば遅くとも該陳述が終つた後直ちに異議を申し立て以て裁判所の決定を求むべきであつて、此手続を採らずして控訴審に於て其不服を主張することは最早許されないものと謂わなければならない。而して原審第一囘公判調書の記載に依れば被告人弁護人とも右の手続を採らなかつたことが明であるから原審検察官の冒頭陳述の欠陥を主張する論旨は理由が無い。

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